映画『あのこは貴族』

思ってた映画と、ちょっと違った。
正直、オレのわからない世界だと思ってしまった。

様々な格差がある。今作は、その格差の中でも身分格差を描いていた。
「貴族」と言っても、一筋縄にゃいかない。

主人公・華子は開業医の二代目。東京育ちのボンボン。めちゃくちゃ金持ちだけど、思ったより家は庶民的。台所でジャムを頬張る姿が物語る。
主人公の結婚相手になる弁護士・幸一郎は、由緒正しき家の生まれで、実家は貿易を営んでいる。親は政治家、彼も結婚相手も政治家になるんだろう。実家はお屋敷、半端なくデカイ。みるからに華子より金持ちだ。
そして地方出身者の美紀。東京に憧れて、必死に勉強して東京の大学に入学するも途中退学してしまう。

この三層の人々で物語が進んでいく。
淡々と続く話は、起伏がなく、ある意味リアルだった。
劇的な変化がなく、続いていく日常。
壁を壊して、爽快な話にすることもできただろう。
でも、そうしなかったのはある意味、大人だと思った。


オレは「東京」を知らない。「東京」を知った状態で、映画『あのこは貴族』を観たらどう感じただろうか。
いや。本当の貴族を観たことがあったら、本当の格差をまざまざと見せつけられたら、本当の格差を実感したらどう思っただろうか。

オレは札幌で生まれて、大学は室蘭に行った。東京は遊びに行くくらい。
中高の友人で、東京の大学に行ったやつは結構いる。
オレは「東京に行きたかったか?」と聞かれると、今は「行きたかった」と答えるだろう。正直、後悔している。
でも、あのころのオレに聞くと「行きたくない」と答えただろう。あのころのオレは今振り返ると色々なものに縛られていた。

母の姉にあたる叔母は、東京の方と結婚して、東京に引っ越した。東京に行き、様々なものを見てきた人だ。
子供の頃からの夢は「富士山が見える家に住むこと」で、今はめちゃくちゃ晴れた日にかろうじて遠くに映る富士山が見える家に住んでいる。夢は叶ったかなと、はにかみながら話してくれた。

オレが高校を卒業して、大学に行かずに浪人生と称してブラブラすることが決まったとき。
叔母さんが「1年間、こっち(東京)に来て、勉強してみないかい?」と声をかけてくれた。
母親は、その叔母とオレが仲良くしているのを快く思ってなかった。(まあ母と叔母は昔から仲良くなかったんだけど)
あの一言はとても嬉しかった。行きたいなと思った。しかし、母親が嫌な顔をし、父親も病気してる中で、実家を離れて叔母の元で勉強ずくめの日々を送る勇気はなかった。
あのとき、叔母さんはオレに東京を見せたかったんだ。
あのとき、東京を見てたら何かが変わっただろうか。

母親は、実の姉との格差を感じてたんだと思う。
そして、あっちに行こうとしたオレを引き止めたかったんだ。
叔母は、東京で様々な格差を感じてたんだと思う。
そして、こっちにオレを来させたかったんだ。

そう考えると、叔母も相当な苦労しているはずだ。
田舎の自転車屋の娘が、東京に出て一流企業の役員の奥さんだ。
相当な苦労だと思う。

映画を一本観て、ひさびさに叔母さんと話したいなと思った。