映画『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』

毎年いろんな映画を観て、記録して、自分の中の順位をつける。
そして毎年一番好きな映画を決めるけど、その後になって思い返すのはベストじゃなくて、5位から10位くらいに位置してる映画だったりする。
でも、後々になって、響いてくる映画。そんな映画が一番好きな映画なんだと思う。

映画『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』は、その年のベスト映画ではない。
でも、ぼんやりと頭の片隅にあって、デイヴィス(ジェイク・ジレンホール)は今何やってんだろうか?クリス(ジュダ・ルイス)は彼氏できたかな?…なんて存在しないキャラクターの人生を考える。
なぜ、オレの中でこんなに響いてるのか。よくわからない。
なんで響いたのか、確認したくて、改めて観た。

 

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物語はデイヴィス(ジェイク・ジレンホール)と妻のジュリア(ヘザー・リンド)が交通事故にあうことから始まる。
まず交通事故までの流れがすごくて、話がトントン拍子に進む。生き物は思ってるより簡単に死ぬし、唐突に起きる。そのあっけなさが上手く表現できている。

妻が亡くなり、軽傷を負ったがピンピンしてるデイヴィス。実はそこまで妻のことを愛していなかった。ポイッと放り出された彼は、悲しみも苦痛も感じない。トイレで泣こうとするけど、フリだけで泣くこともできない。
そしらぬ顔して、いつもどおり会社に行って仕事しようとするけど、周りは変な顔で見てくる。

30年間生きてきて、様々な死に触れてきた。あんま好きじゃなかったけど、なんだかんだスゲェ影響されてた父親。だいすきで毎週末のように遊びに行ってたおじいちゃん。生まれた頃からずっと連れ添ってくれた三毛猫のちゃむちゃん、拾ってきた黒猫のエイジ。他にも従兄弟やおじさん・おばさん。

最近、愛猫のカールが亡くなった。中学くらいのときから飼ってた猫だ。
人見知りが激しくて、気分屋で、すぐ爪を立てるようなヤツだった。
でも、オレの顔を見たら飛びついてきて、歩けないくらいスリスリしてくる。オレが座ってると猫じゃらしを咥えて持ってきて、遊べとせがむ。もう結構な歳だったのに。
めちゃくちゃ愛されてた。そしてオレもめちゃくちゃ愛してた。

 

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今作の原題はDemolitionだ。和訳すると解体。
デイヴィスは、いつもは気にならなかったことが目に入り、気にするようになる。
空港に集う人のスーツケースの中身、トイレのドアが軋む音、デスクのパソコン、水漏れしてて妻から修理を頼まれてた冷蔵庫。
その中身がどうなってるのか、解体したい衝動にかられ、ついついぶっ壊してしまう。
そして、破壊衝動および破壊行動はドンドンエスカレートしていく。家具やテレビはもちろん。しまいにはブルドーザーを購入して、住んでた家まで木っ端微塵に破壊する。

オレは、破壊衝動が少ない方だ。
酔っ払って誰かを殴ってる人とか、ムカついて壁殴る人とか、あんま理解できない。
正直、ハタから見ててバカみたいだなぁと思う。周りが壊れる(傷つく)だけじゃん。
ストレス発散したいなら、走ればいいのに。笑

でも、このデイヴィスの破壊衝動は、ちょっとわかる気がする。
たぶん彼は解らないんだ。自分のことも、周りのことも、亡くなった妻のことも。
そして彼は解りたいんだ。自分のことを、周りのことを、亡くなった妻のことを。
だから彼は解体するんだ。目の前のものを。妻はもういないから。

この映画は、誰かが亡くなって宙ぶらりんになった感情を、とても上手に表現している。

前述したとおり、愛猫が亡くなった。
いろいろな思い出が思い返されるけど泣いていない。亡くなってとても悲しい。
でも、なんか変な気分なんだ。

 

そして物語はクライマックスに至る。
デイヴィスは家を解体していく中で、タンスから思わぬものを発見する。そして隠されていた妻の行動を知る。
ついに気持ちの整理がついたデイヴィスは、妻の父親(義父)と対峙する。彼はどうなるのか。

海岸線沿いでトボトボ歩くデイヴィス。
周りの子供たちにつられて、走り出すところで映画が終わる。

彼の人生がようやく走り始めた。